大阪高等裁判所 昭和29年(ネ)959号 判決 1958年6月11日
控訴人 楠喜三二
被控訴人 大阪府中小企業信用保証協会
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。
控訴人は、まず本案前の抗弁として、控訴人は、大阪地方裁判所昭和二九年(コ)第二号和議事件をもつて和議開始の申立をし同裁判所は同年八月二日和議開始決定をしたのであるが、被控訴人は本件保証債権を和議債権として届け出で、管財人及び整理委員はこれにつき議決権を行わせることに対しなんらの異議を述べず、ついで控訴人は債権者集会の期日に和議の提供をし同集会において和議は可決せられ、同裁判所はこれを認可する旨決定したが、これに対し即時抗告の申立があり右認可決定は未確定であるけれども、本件保証債権につき和議手続中であるから本件訴はその利益を欠くものである。
次に、本案につき、控訴人は本件請求原因事実はすべてこれを認める。しかしながら、本件保証債務の弁済は、和議法三一条三二条一項にいわゆる通常の範囲に属しない行為であり管財人の同意が得られないから、控訴人は本件保証債務を弁済することができない。さらに原判決には仮執行の宣言を付してあるけれども和議手続中は和議債権につき債務者の財産に対し強制執行をすることができないから、右仮執行の宣言は違法である。と述べた。
被控訴人の主張するところは、控訴人の右主張事実中控訴人が大阪地方裁判所に和議開始の申立をし被控訴人が本件債権を和議債権として届け出で管財人及び整理委員はこれにつき議決権を行わせることに異議を述べず、債権者集会において和議は可決せられ、これに対する認可決定があり和議認可決定は未確定であることは認める、と述べた外、原判決摘示の事実(但し、原判決三枚目表末行中「及びこれ」は誤記であるからこれを削る。)と同一であるからこれを引用する。
当事者双方の証拠の提出、援用、認否は、被控訴人の方で甲第七、八号証を提出し、控訴人の方で甲第七、八号証及び原審で提出された同第五号証の各成立を認める、と述べた外、すべて原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
理由
まず、本案前の抗弁につき考えてみるに、本件債権についての和議認可決定が現に未確定であることは当事者間に争がないところ、和議手続においては、破産の場合と異り和議債権につきその調査を経てこれを確定させることはないし、たとえ和議が確定したとしてもその和議は和議債権につき確定力を有せず、また和議債権につき存する債務名義はその後に確定した和議条件に抵触しない範囲においてはその執行力を有するのであるから、和議債権者は和議手続中であつてもその和議債権につき即時給付の判決を求める利益を有するといわなければならない。控訴人の右抗弁は採用することができない。
次に、本案につき判断するに、被控訴人主張の請求原因事実はすべて当事者間に争がない。
控訴人は、和議手続中であるから本件債務を弁済することができないと主張するけれども、債務の弁済は必らずしも和議法三二条一項にいわゆる通常の範囲に属しない行為にあたるものとは限らず、和議手続中の債務者はその債務を弁済することを法律上禁じられていないし(会社更生法一一二条参照)、よしんばその弁済資金の調達のため自己の財産を処分することが通常の範囲に属しないもので、しかもこれにつき管財人の同意が得られず事実上弁済することができないとしても、それは右債務者の支払義務の存否になんらの影響を及ぼさない。控訴人の右抗弁は採用し得ない。
してみれば、控訴人は被控訴人に対し五八六、六八一円及び内金二九八、九八八円に対する弁済期後である昭和二八年一月三〇日から支払ずみまで日歩一〇銭の割合の遅延損害金、内金一、三五〇円に対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和二七年六月二五日から支払ずみまで民法に定める年五分の割合の金額を支払うべき義務があるものといわなければならない。
控訴人は、原審が仮執行の宣言をしたのは違法であると主張するけれども、仮執行の宣言は未確定の判決に対し、その確定前仮に確定したと同様の効力を与えるにすぎないから、たとえその執行が不能に終ることがあるとしても、仮執行の宣言をすることは違法ではない。なお和議手続中であるための債務者に対する強制執行の障害は一時的なものにすぎず、たとえ現にその執行が不能であるとしても、将来、原判決未確定の間に右和議手続が終結しその執行障害の事由が消滅することがないわけではないから、原審が仮執行の宣言を付したのは不当ということはできない。
右と同趣旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、民訴法三八四条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 熊野啓五郎 岡野幸之助 山内敏彦)